こんにちは。土木設計歴30年、AI土木研究室です。今回は、生成AIを土木設計の実務で使うときに成果を大きく左右する「プロンプト(AIへの指示文)」について解説します。
ただし、一般論は書きません。私が実際に投げたプロンプトと、その結果どうなったかをそのまま公開します。重力式擁壁の安定計算を3つのAIモデルに同じ文面で投げて構造計算ソフトと突き合わせた実験、約2,000ファイルのフォルダから資料を集めさせた実験、そして日々の数量計算・図面照査でやっていること。この4つが今回の材料です。
なぜ土木設計でプロンプトの精度が成果を左右するのか
生成AIは、与えられた情報の範囲内でしか正確な回答を組み立てられません。「擁壁の数量計算をチェックして」とだけ入力しても、AIは対象の構造形式も設計条件も分からないため、一般論しか返せません。
もうひとつ、土木特有の落とし穴があります。AIは「土木の常識」では動きません。私たちが当たり前に処理している暗黙知――基礎材は均し材だから安定計算では無視する、底版幅Bは躯体基部の幅を取る、「1:0.5」は鉛直1に対して水平0.5――こういったものは、条件として明文化して渡さない限り伝わりません。
土木設計は条件が一つひとつ異なる仕事です。だからこそ、プロンプトに含める情報の粒度がそのまま精度を決めます。
良いプロンプトの5つの基本原則
土木設計の実務でAIを使う際に押さえておきたい原則を5つ紹介します。
- 役割を与える:「あなたは土木構造物の照査を専門とする技術者です」のように役割を設定すると、回答の視点が実務寄りになります。
- 条件を数値で示す:構造形式、寸法、延長、地盤条件など、判断に必要な数値情報はできるだけ具体的に入力します。
- 土木の常識を条件文にする:「基礎材は無視」「B=躯体基部の幅」など、暗黙の前提こそ明文化します。ここが一番効きます。
- 出力形式を指定する:「表形式で」「箇条書きで」「途中式を省略せず全部見せて」など、欲しいアウトプットの形を明示します。
- 段階的に質問する:一度に全てを聞くのではなく、読み取り→計算→照査というように工程を分けると、途中で誤りに気づけます。
実際に使ったプロンプト実例|擁壁の安定計算をAI3モデルに投げた
私が実際にAIへ投げたプロンプトを、そのまま公開します。重力式擁壁の常時の安定計算を、GPT-5.5・Claude Opus 4.8・Gemini 3.1 Pro の3モデルに一字一句同じ文面で投げたときのものです。
■ まず図面から次の寸法を読み取り、一覧表で示すこと: 擁壁高 H、天端幅 b1、底版幅 B(躯体基部)、背面勾配、前面勾配、根入れ Df ■ 次に、読み取った寸法と以下の条件で安定計算を行うこと。 ・コンクリート単位体積重量 γc=23.0 kN/m3 ・背面土:γs=19.0 kN/m3、内部摩擦角 φ=30°、壁面摩擦角 δ=20°、粘着力 c=0 ・上載荷重 q=10 kN/m2(背面地表面に等分布) ・基礎地盤との摩擦係数 μ=0.60、地盤の粘着力 cB=0、許容支持力度 qa=200 kN/m2 ・土圧の算定法:試行くさび法(すべり角を変化させ、主働土圧が最大となる値を採用) ・照査ケース:常時のみ ■ ルール ・基礎材(RC-40)は均し材として安定計算では無視し、底版幅 B=躯体基部の幅を用いること。 ・単位は 力=kN、応力・地盤反力=kN/m2、長さ=m に統一。 ・指定した式・係数・単位以外を勝手に使わないこと。仮定は必ず明記。 ・途中式と数値代入を省略せず全部見せること。 ■ 最後に必ず次の4つでまとめること ① 転倒:合力作用位置 e(m)と判定(e ≦ B/6 か) ② 滑動:安全率 Fs(≧1.5 か) ③ 支持:最大地盤反力 q_max(kN/m2)と判定(≦ qa か) ④ 総合判定(OK / NG)
このプロンプトの何が効いているか
長く見えますが、やっていることは4つだけです。
① 読み取りと計算を分けている
いきなり「安定計算して」ではなく、まず寸法を一覧表で出させます。ここで人が図面と突き合わせられるので、入口で間違いを止められます。
② 土木の常識を条件として書いている
「基礎材(RC-40)は均し材として無視」「底版幅B=躯体基部の幅」。ここが最大のポイントです。書かなければ、AIは基礎材の張り出しまで底版幅に含めてしまいます。
③ やらせないことを書いている
「指定した式・係数・単位以外を勝手に使わないこと」。これがないと、AIは親切心で別の係数を持ち出してきます。
④ 出力の型を固定している
最後の4項目を指定しているので、モデルが違っても結果を横に並べて比較できます。
結果:構造計算ソフトと小数3桁まで一致した
「正解」は、私が日々の設計で使っている構造計算ソフト(道路土工 擁壁工指針 平成24年7月)の出力です。
| 転倒 e (m) | 滑動 Fs | q_max (kN/m2) | 判定 | |
|---|---|---|---|---|
| 構造計算ソフト(正解) | 0.332 | 1.903 | 127.196 | OK |
| Claude Opus 4.8 | 0.332 | 1.903 | 127.2 | OK |
| GPT-5.5 | 0.404 | 1.90 | 140.52 | NG |
| Gemini 3.1 Pro | 0.404 | 1.90 | 140.59 | NG |
まず、図面からの寸法読み取りは3モデルとも5項目すべて正解でした。プロンプトの「まず寸法を読み取って一覧表で示せ」が効いています。
そのうえで Opus 4.8 は平均誤差 0.0008%。事実上、構造計算ソフトと同値です。
ただし、ここが怖い
GPT-5.5 と Gemini は、土圧の鉛直成分の作用位置をやや手前に取る癖があり、偏心 e を 0.072m 過大に評価しました。癖そのものは小さい。
しかし今回は e=0.332 に対して許容値が B/6=0.367 という境界ケースでした。その小さな癖が閾値をまたぎ、判定が真逆になったわけです。
安全率や偏心の判定は、閾値で OK / NG が切り替わります。境界付近では、AIのわずかなバイアスが「安全なものを危険」「危険なものを安全」に反転させ得る。プロンプトをどれだけ作り込んでも、AI単独の判定は鵜呑みにできません。
実務的な結論はこうです。力の総量(ΣV・ΣH・滑動Fs)は3モデルとも小数3桁一致するので任せられる。一方でモーメントの腕と作用位置は人が確認する。この分業が現実解です。
凝った指示文より、現場の文章をそのまま渡す
もうひとつ、はっきり効果が出た実験があります。過年度成果 約2,000ファイル(道路・構造物・橋梁・トンネルの4分野)が入ったクラウドフォルダに対して、同じフォルダに頼み方だけ変えて2回投げました。
1回目:「関連しそうな過年度成果を整理して」
所要36秒。ボックスカルバート設計らしいと推定して、箱型函渠9基分に加えて補強土・大型ブロック積・袖擁壁まで、14件を横並びで出してきました。
速い。でも全部盛りです。曖昧に頼んだぶん、AIは「外す勇気」を持てず念のため広く拾う。結局「で、今回いじるのはどれ?」を人が選び直すことになります。
2回目:元請との打合せメモを、そのまま渡した
2回目は、気の利いた指示文を考えるのをやめました。元請との協議をまとめたメモを、そのままコピペしただけです。
1号函渠は過年度で設計済み(現場打ち)。水路の高さが変わるので今回修正/もう一基は新規/プレキャストは標準を使う
所要56秒。今度は1号函渠に一直線でした。詳細設計報告書・設計図一式・CAD原図フォルダという、そのまま修正のたたき台になる現物にピンポイントで到達。さらに図面から諸元(二分割ボックスカルバート、内空 B3300×H2900、延長26.901m、PC鋼棒φ19/φ26)まで拾ってきました。
特別なプロンプト技術は何も使っていません。メモの中の「1号」「現場打ち」「プレキャスト修正」という、現場で普通に使っている言葉が、そのまま道しるべになっただけです。固有名詞・状態・目的。この3つが入っていれば、文章が上手くなくてもAIは動きます。
若手に仕事を振るときと同じです。「あれ、いい感じにやっといて」では動けない。打合せメモを渡して「これ踏まえてやっといて」なら動ける。相手がAIでも、まったく同じでした。
おまけ:AIが人間側の前提のズレに気づいた
このとき、協議メモには「1号函渠は現場打ちで設計済み」と書いてあったのに、実際の過年度図面はすでにプレキャストの割り付け図になっていました。
「修正」設計の出発点に関わる食い違いです。人がフォルダを流し見していたら、たぶん気づかずに進めていました。ベテランほど「過年度はこうだったはず」と記憶で進めがちですが、AIは記憶ではなく現物を読む。チェック役として侮れません。
数量計算書は「プロンプト」ではなく「skill」で作る
ここまでプロンプトの話をしてきましたが、正直に書きます。数量計算書については、私は毎回プロンプトを書いていません。
Claude in Excel を使い、手順そのものをファイルに固定した「skill」を呼び出して作業しています。流れはこうです。
図面PDF → 延長調書(拾い出し) → B調書(数量計算書) → A調書 → 数量総括表
この流れを、都度プロンプトを書かずに回します。作業時間は1/5〜1/10になり、ミスも思いのほか少ない。
なぜプロンプトではなく skill なのか
数量計算書は書式が決まっているからです。
- B調書は1品目=1ブロック(24行構成)、C列=規格、E列=単位、F列=数量
- F列は直接入力せず、計算結果セル(O列)を参照させる
- 数量は小数2桁固定(「箇所」でも
20.00と書く)
これを毎回説明し直すのは現実的ではないし、説明が少しズレれば出力もズレます。一度書いて固定してしまえば、次からは「延長調書からB調書を作って」の一言で同じ品質が出ます。
先ほどの擁壁のプロンプトを思い出してください。あれは長い。あの長さを毎回書くくらいなら、ファイルにして呼び出したほうがいい――それが skill です。プロンプトを上手く書く、の一歩先に「上手いプロンプトを固定する」があります。
実際に使っている skill
| やりたいこと | 入力 | 出力 |
|---|---|---|
| 図面から数量を拾う | 図面PDF(情報付き) | 延長調書 |
| 延長調書から計算書を起こす | 延長調書 | B調書の品目ブロック(書式コピーで追加) |
| B調書を集計書に反映する | B調書シート | A調書に =B調書!Fxxx でリンク |
| 工種ごとの計算書を総括表にまとめる | 複数のC調書ファイル | 数量総括表の更新 |
| 擁壁の展開図から数量を拾う | 展開図PDF(ベクター) | 数量確認シート → 数量計算書 |
数量は必ず「計算式付き」で出させる
答えの数字だけでは実務で使えません。計算式をセルに残させます。
I列(式の表示): 3.3+3.5+2.0 O列(計算結果): =ROUND(3.3+3.5+2.0,2) F列(数量): =O列
こうしておけば、後から人が検算できる。AIが出した数字を信じるのではなく、AIが出した式を人が見る。擁壁の安定計算で「途中式を省略せず全部見せろ」と書いたのと、まったく同じ考え方です。
skill に必ず書いている3つのこと
① 入出力の書式を「列」まで指定する
「B調書に書いて」では通じません。「F列=数量、=O列 参照、小数2桁」まで書きます。
② 人の確認を「関所」として挟む
図面から値を読ませたあと、いきなり数量計算書を作らせません。まず確認用のシートを出させて、そこで自分が点検・修正します。承認するまで次に進ませない、と明記しています。擁壁の展開図なら h1(根入れ)と h2(地上)の振り分けを間違えると全部が狂うので、人が見る余地を必ず残します。
③ やらせないことを書く
意外と効くのがこれです。私の skill には「PDFを画像化して見ようとするな」と明記してあります。座標データを読めば済むところを画像で判断しようとして、時間だけ使った失敗が実際にありました。同じく「書式を変更するな(値と数式だけ書け)」も必ず入れます。罫線や結合を触られると、成果品として使えません。
関連記事:重力式擁壁の数量計算を自動化する方法【ExcelとAIで作業時間を90%削減】
図面照査は「赤黄チェック」ごとAIに渡す
図面照査でやっているのは、図面PDFとExcel集計表の数量を突き合わせる作業です。いわゆる赤黄チェック。
やり方はシンプルで、情報付きPDF(ベクターPDF)と数量Excelの両方を渡して突合させるだけです。これもプロンプトではなく skill で手順を固定しています。
実例:表土除去平面図とExcelの突合
実際の例で説明します。表土除去平面図には、引出線でこういうラベルが入っています。
表土除去 t=10cm A=10.5m2 表土除去 t=10cm A=3.5m2 表土除去 t=10cm A=1.5m2 表土除去 t=10cm A=0.9m2
一方、Excel(共通仮設)の「表土除去平面図(2)」列には 10.5 1.5 0.9 が入力されている。この2つを突き合わせます。

結果はこうなりました。
- 一致した
10.51.50.9は、PDF側のラベルに黄色マーカー、Excel側のセルに黄色ハッチが入った - Excelにシートがたくさんある中から、図面と同じ項目の列を自分で見つけてきた
- そして A=3.5m2 だけ、どちらにも色が付かずに残った

この「色が付かなかったもの」が答えです。図面には書いてあるのにExcelに入っていない。人間が赤黄チェックでやっているのと、まったく同じことをしています。
一致を探すのではなく、一致しなかったものだけを浮かび上がらせる。これが突合作業の本質で、AIに向いているのはまさにここです。
なお、出力は元ファイルではなく別名(例:共通仮設_チェックHL.xlsm)に書き出させています。原本を汚さないこと、これも skill に明記しておく項目のひとつです。
精度を決めているのは、文章より入力の作り方
ここが本記事で一番伝えたいところかもしれません。スキャンPDFとベクターPDFは、AIにとって別物です。
| スキャン(画像)PDF | 情報付き(ベクター)PDF | |
|---|---|---|
| 寸法値の実体 | 画像の中のドット | 文字+座標データ |
| AIの読み方 | 推測(OCR) | 直接読める |
| 照合精度 | 不安定 | 安定 |
図面をスクリーンショットしてAIに見せる方が多いのですが、これが一番精度の出ない渡し方です。CADからの出力方法が、そのまま照査精度を決めています。
先ほどの擁壁の実験で3モデルとも寸法読み取りが5項目満点だったのも、同じ理由です。プロンプトが良かっただけでなく、AIが読めるPDFを渡していた。
地味で抜けが怖い作業ほど、AIが向く
赤黄チェックは、難しい作業ではありません。ただ量が多く、抜けると怖い。人間が一番苦手で、AIが一番得意な領域です。
一方で、赤枠の意味や補助線の扱いなど、座標データだけでは判断しきれないものは残ります。そこは人が見る前提で組んでおきます。
関連記事:【最新手法】AIで設計図面のチェックを自動化する方法|土木のミス防止/土木設計でChatGPT・AIを活用する具体的な方法5選
プロンプトが失敗しやすい3つのパターンと対策
- 土木の常識を書かない:一番多い失敗です。「基礎材は無視」「B=躯体基部の幅」を書かなかっただけで、答えが変わります。暗黙の前提こそ言語化してください。
- 読み取りと計算を分けない:いきなり答えを出させると、どこで間違えたか分かりません。まず読み取り結果を出させて、人が確認してから計算に進みます。
- 境界付近の判定を鵜呑みにする:e/(B/6) や Fs/Fsa が 1.0 に近いケースほど、AIの小さな癖が判定を反転させます。要所だけ手計算で検算するだけで、結論の信頼性が一段上がります。
CADDON_proと組み合わせてさらに効率化する
プロンプトの工夫でAIとの対話精度を上げつつ、図面作成そのものを効率化したい場合は、AutoCAD向け支援ツール「CADDON_pro」の活用もおすすめです。数量計算や図面作成の定型作業をツールとAIの両輪で効率化することで、月あたりの残業時間を大きく削減できた事例も出てきています。
まとめ:精度を上げる4つのコツ
30年やってきた立場で、実験を通じて分かったことを4つに絞るとこうなります。
- 土木の常識を明文化する――AIは常識では動かない。暗黙知を条件文に落とす
- 凝った指示文より、現場の文章をそのまま渡す――固有名詞・状態・目的が入っていれば十分
- 定型業務はプロンプトを卒業して skill にする――同じ長文を毎回書かない
- 入力の作り方に投資する――情報付きPDFで出す。それだけで読み取り精度が変わる
そして最後にひとつ。境界付近の判定は、必ず人が検算する。AIの小さな癖が、OKとNGを簡単に反転させます。
AI時代に価値が上がるのは、AIの数字の妥当性をプロの直観で判定できる人と、専門知識を言語化してAIに渡せる人です。プロンプト力は、その入口にあるスキルだと思っています。
※本記事の実験の詳細は note でも公開しています → AI土木研究室|note
著者:AI土木研究室 / 土木設計歴30年。建設コンサルタントとしてインフラ整備に携わりながら、AI・自動化ツールの研究開発を行う。AI土木研究室(doboku-ai.jp)運営。


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