こんにちは。土木設計歴30年、AI土木研究室です。
令和8年2月27日、国土交通省が令和8年度から適用する土木工事・業務の積算基準等の改定内容を公表しました。ニュースや業界メディアでは工事(施工)側の話題が中心ですが、実は今回、建設コンサルタント業務=設計・調査・点検の側にも見逃せない改定が入っています。
特に「業務スライド制度の試行導入」と「道路予備設計の補正係数の新設」は、受注金額に直接影響します。この記事では、公表された別紙と参考資料をもとに、業務(設計)側だけに絞って改定ポイントを整理します。数値はすべて国交省公表資料に記載されたものです。
令和8年度改定で設計業務に関係する6項目
まず全体像です。今回の改定のうち、建設コンサルタント業務等に関わるのは次の6点です。
- 設計業務等標準歩掛の改定(UAVレーザ測量、地すべり調査、道路予備設計(A)(B)、橋梁定期点検業務)
- 道路トンネル定期点検業務の歩掛を新規策定
- 道路予備設計の補正係数を新設(設計延長1km未満)
- 業務スライド制度(スライド制度)の試行導入
- 建設コンサルタント業務等への熱中症対策の一部導入
- 業務関係の共通仕様書の一部改定
順に、実務にどう効くかを見ていきます。
道路予備設計の補正係数が新設|1km未満の設計が正当に評価される
今回、設計業務の積算で最もインパクトが大きいのがここだと考えています。
これまで道路予備設計には、設計延長が短い場合の補正がありませんでした。しかし実際には、延長200mでも1kmでも、設計計画・現地踏査・関係機関協議・報告書作成といった「延長に比例しない手間」は同じだけ発生します。短い区間ほど採算が合わない、というのは現場の実感そのものでした。
国交省の資料では「設計延長が1km未満の設計において、実態と乖離していたことから、補正係数の設定を行う」とされ、次の算出式が新設されました。
【道路予備設計の補正係数(新設)】設計延長1km未満
K = 0.8 × L + 0.2
K:直接人件費の補正係数
L:設計延長(km)
【参考】道路詳細設計の補正係数(現行)
K = 0.5 × L + 0.5
資料には具体例も示されており、設計延長0.5kmの場合、直接人件費の合計が現行1,199,200円から改定後1,439,040円となっています。差額は239,840円、率にして約20%の増額です(金額は公表資料の記載、増加率は筆者による計算)。
小規模な道路予備設計を数多く受注している事務所ほど、影響は大きくなります。
道路予備設計(A)(B)の歩掛改定|工程が「分割」された意味
歩掛そのものも、実態調査の結果「実態と乖離していた」として改定されます。単なる数値の増減以上に注目すべきは、作業工程の切り分けが変わったことです。
道路予備設計(A)(1km当り)では、これまで一体だった工程から「設計図作成」と「関係機関との協議資料作成」が分割され、それぞれ独立した工程として歩掛が設定されました。道路予備設計(B)では、さらに「道路付帯構造物設計」と「小構造物設計」も分割されています。
関係機関との協議資料作成が独立した工程になった意味は小さくありません。警察協議、河川管理者協議、占用者協議――設計者の実務時間を確実に食っていながら、これまで「設計図作成」に埋もれていた作業が、積算上も可視化されたということです。
また、道路予備設計(A)の「照査」工程は、現行の歩掛(1.0/1.0)から改定後(1.1/1.6)へと引き上げられています。照査に割くべき時間が実態として増えている、という調査結果の反映と読めます(職種別の内訳は公表資料の該当表をご確認ください)。設計照査の進め方については設計照査のミスを減らすチェックリストの作り方でも整理しています。
道路トンネル定期点検業務の歩掛が新規策定|ひび割れ密度で日数が変わる
これまで積算根拠が乏しかった道路トンネル定期点検業務について、実態調査をもとに新規歩掛が策定されました。構成は次のとおりです。
- 計画準備(10トンネル当り)…計画準備、資料収集整理、現地踏査、関係機関協議
- 状態の把握(点検)…班編成(1日当り)× 点検日数(10,000m²当り)
- 健全性の診断(10トンネル当り)
- 報告書等の作成(10トンネル当り)、定期点検記録様式の作成(10,000m²当り)
実務上いちばん重要なのは、点検日数がひび割れ密度C(m/m²)によって5段階に区分され、さらに初回と2回目以降で日数が分けられている点です。
点検日数(10,000m²当り) 初回 / 2回目以降
0 ≦ C ≦ 0.1 …… 3.1日 / 2.4日
0.1 < C ≦ 0.2 …… 4.1日 / 3.2日
0.2 < C ≦ 0.3 …… 5.3日 / 4.2日
0.3 < C ≦ 0.4 …… 6.7日 / 5.5日
0.4 < C …… 8.7日 / 7.3日
計上歩掛(10,000m²当り) = 班編成 × 点検日数
ひび割れ密度が最も高い区分では、最も低い区分の約2.8倍の日数が計上されます。「変状が多いトンネルほど点検に時間がかかる」という当たり前の実態が、ようやく積算基準に組み込まれた形です。見積作成時には、対象トンネルのひび割れ密度と点検回数(初回か否か)を必ず確認しておく必要があります。
業務スライド制度の試行導入|長期業務の価格転嫁が可能に
令和7年12月3日に公表済みの内容ですが、令和8年度から本格的に動き出します。業務委託の価格転嫁対策を強化するため、令和8年度以降に新規契約する建設コンサルタント業務等からスライド制度(業務スライド)が試行導入されます。
工事のスライド条項は以前からありましたが、業務にはありませんでした。技術者単価が上がっても、複数年にまたがる業務では契約時の金額のまま――という状況が変わります。
A:残業務に対する変動前後の差額
B:変動前残業務委託料
■全体スライド(契約締結から12か月以上経過した業務が対象)
変更額 = A - B × 1.5%
※ A > B × 1.5% の場合のみ適用可能
■インフレスライド(急激なインフレがあった場合が対象)
変更額 = A - B × 1.0%
※ A > B × 1.0% の場合のみ適用可能
※ 残履行期間2か月以上
ポイントは、スライドの対象が「残業務量部分(未着手)」だけだという点です。すでに着手・履行した部分は対象外になります。したがって、履行済みと未着手の境界を明確に説明できる体制が必要になります。
実際、国交省も「まずはスライド額を適切に算定できる業務(賃金等の変動時の着手済・未着手が明確に確認できる業務)などから適用を開始」としています。つまり、工程管理の記録がきちんと残っている事務所から順に恩恵を受けられる制度です。日報や工程表を後回しにしてきた事務所は、ここで差がつきます。
測量・調査業務の歩掛改定|UAVレーザ測量は工程が組み替えに
UAVレーザ測量の歩掛は「作業規定準則の作業工程に対応した歩掛を新たに制定・現行の歩掛改定を行う」とされ、工程の構成そのものが組み替えられました。
- 現行:作業計画/調整点・検証点の設置/UAVレーザー測量/点群編集/三次元点群データファイルの作成/数値地形図データファイルの作成
- 改定:作業計画/現地踏査/計測計画の作成/固定局の設置/調整点の設置/計測/オリジナルデータの作成/その他の成果データの作成/成果等の整理
「現地踏査」「計測計画の作成」「固定局の設置」が独立して計上されるようになった点が実務的な変化です。飛ばす前の準備作業が積算に乗る、と考えるとわかりやすいでしょう。
地すべり調査についても、地下水位測定・移動変形調査(パイプ式歪計、挿入式孔内傾斜計)の観測および資料整理の歩掛が、実態調査の結果を踏まえて改定されます。「1孔・1回」と「1孔・1ヶ月」の区分で整理されている点に注意してください。
熱中症対策・その他の検討事項
工事で策定された「猛暑対策サポートパッケージ」について、建設コンサルタント業務等においても一部導入が行われます。公表資料では次の運用が示されています。
- 履行期間の設定にあたり、猛暑期間の回避、猛暑期間における作業回避の協議の明記、猛暑時間の作業回避等を考慮する運用について通知を発出予定
- 猛暑対策に必要な経費等の確保にあたり、諸経費等へ積上計上する運用を開始予定
外業を伴う測量・調査・点検業務にとっては、履行期間の設定段階から夏場の作業を協議できる根拠ができたことになります。
このほか、旅費交通費の率を用いない積算の運用、モノレールによる現場内小運搬の積算方法、諸経費動向調査の調査手法の見直しについて、令和8年度から検討が進められます。いずれも「決定」ではなく「検討」の段階ですが、旅費交通費の扱いは点在現場を抱える業務の採算に直結するため、続報を追う価値があります。
また業務関係の共通仕様書として、測量業務共通仕様書(案)、地質・土質調査業務共通仕様書(案)、土木設計業務等共通仕様書(案)、電気通信施設設計業務共通仕様書が一部改定されます。
適用時期|3月入札案件は「契約後の変更」が可能
見落としやすいのが適用スケジュールです。原則は入札書提出締切日が令和8年4月1日以降の案件から新基準を適用となります。
ただし、設計業務等標準歩掛の歩掛改定については経過措置があります。入札書提出締切日が令和8年3月1日から3月31日までの間に設定される案件は、旧基準のまま予定価格が算定されたうえで、契約後に改定内容に基づいた変更をすることができます。
変更後の請負代金額 = 新基準に基づく予定価格 × 当初契約時の落札率
この変更は受発注者からの請求に基づいて行われ、入札公告等にその旨が記載されます。3月に入札を迎える業務がある場合は、公告文の該当記載を必ず確認してください。何も言わなければ旧基準のまま、という結果になりかねません。
まとめ|「実態が積算に反映される流れ」をどう活かすか
令和8年度の改定を業務側から眺めると、一貫した方向性が見えてきます。これまで見えていなかった手間を、実態調査で拾い上げて積算に載せるという流れです。
- 道路予備設計に1km未満の補正係数を新設(0.5kmで直接人件費1,199,200円→1,439,040円)
- 関係機関との協議資料作成などを独立工程として分割
- トンネル点検日数をひび割れ密度で5区分、初回と2回目以降を区別
- 業務スライドで長期業務の価格転嫁を可能に(全体スライド1.5%、インフレスライド1.0%)
- UAVレーザ測量は準備工程を独立計上する構成へ
- 3月入札案件は契約後変更が可能。公告文の確認が必須
ここで効いてくるのが、日々の記録です。業務スライドは履行済み・未着手の区分が説明できることが前提であり、歩掛の実態調査もまた、事務所が提出する実績データの積み重ねで決まります。工程実績や数量の根拠が散らかったままでは、制度が変わっても取りこぼします。
逆に言えば、日常業務の記録と計算をデジタル化しておくことが、そのまま増額請求の根拠になる時代になったということです。数量計算の根拠を残す仕組みづくりについてはCADDON_proでも取り組んでいます。制度の変化を待つだけでなく、拾える分を確実に拾える体制を今のうちに整えておきたいところです。
【出典】
国土交通省「令和8年度 国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」(令和8年2月27日 報道発表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001304.html
本記事の数値・制度内容は、同報道発表の別紙および参考資料の記載に基づいています。実際の積算にあたっては、必ず最新の積算基準書および発注者の公告文をご確認ください。
著者:AI土木研究室 / 土木設計歴30年。建設コンサルタントとしてインフラ整備に携わりながら、AI・自動化ツールの研究開発を行う。AI土木研究室(doboku-ai.jp)運営。


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